新型コロナウィルスにより最も影響を受けたのは来日客を対象とした事業を運営するインバウンド事業者。お客様がいなくなった状況でも生き残りをするために今何をするべきなのかを事例を用いて調べましたのでご紹介させていただきます。
この記事を読み、DXを用いたWithコロナの試作の方向性が少しでも見つかれば嬉しいです!
インバウンドとは
初めに、ご存知かと思いますがインバウンドについてご紹介します。インバウンドとは、主に日本の観光業界において「外国人の日本旅行(訪日旅行)」あるいは「訪日外国人観光客」などのことを指します。
日本政府が、日本の人口減少によりマーケット規模が小さくなっていることからインバウンドによる経済活性化を目指したこと、そして東京オリンピックの開催によりインバウンド需要活性化が期待されていました。
下記資料をご覧いただければ一眼で分かりますが、2012年頃から急成長していることが分かります。
国内消費をインバウンドがうわまったというのは新しいマーケットを開拓する必要性が増したということで、日本の事業者は国内需要だけではなく訪日外国人向けの事業も積極的に行えるチャンスが生まれたということにもなります。
現時点では
・観光業
・ホテル・旅館業
・飲食業
・製造業
などがインバウンド向け事業者としての代表格でしょう。すでに顕在している上述した事業者はインバウンド需要の恩恵を直に受けていたと思います。また、これらの業種の下請けである建設業や部品の卸売業なども活性化していました。
その活性化具合は驚きで2018年時点では、世界9番目に国際観光収入がありました。(下記グラフ参照)
東京オリンピックを控えさらなる活性化が見込まれていたインバウンド需要。しかし、新型コロナウィルスで一変してしまいました。
【新型コロナウイルス後】インバウンド状況
では、新型コロナウイルスでどれくらいインバウンドは影響を受けたのか?
・訪日外国人数
・倒産件数
をもとにまとめてみました。
まず、訪日外国人数についてです。日本政府観光局が2020年11月に行った調査によると新型コロナウイルスが蔓延し始めた3月から大幅に訪日外国人数が減っていることが分かります。
■2020年 訪日外客数・出国日本人数 出典:日本政府観光局(JNTO)
10月時点で前年の-85%とその影響を感じます。
また、損失金額を予測してみると2019年時点では訪日外国人の消費額が約16万円/1人だったことから約2億6千万円の損失であることが分かります。
また、それだけの損失、つまりそれくらいの利益が見込めていた企業が多く存在していたこともあり予想外の損失で倒産件数も増加しました。
■新型コロナウイルス関連の国内倒産件数(2020年12月時点) 出典:株式会社帝国データバンク
2020年12月24日時点で、倒産件数は841件。内訳をみてみると上位がインバウンド需要が売上に与える影響が大きい飲食、ホテル・旅館が多いことが分かります。また、ホテル建設などを請け負う建設・工事業も倒産件数が多いことが分かります。
新型コロナウイルスにより
・訪日外国人数は約85%減少
・純粋な損失は約2億6千万円
・倒産件数は841件
これが新型コロナウイルス後のインバウンド市場の状況です。
【インバウンド事業者向け】Withコロナの生き残り方
マーケットが一気に縮小してしまい、その影響で環境業など直接的に影響を受ける事業関係者がダメージを受け、その影響が下請けの建設業などの事業関係者が受けてしまいました。このような状況でインバウンド事業者はどのようにコロナと共存すればいいのでしょうか?
日本政府観光局(JNTO)の企画総室長、藤田礼子さんは下記のようにおっしゃっています。
今は、アフターコロナでの来日(富裕層)を促すためのプロモーションをこまめに行うべき。そのプロモーションは、ホップ、ステップ、ジャンプの3段階に分けられるとのことです。
1.ホップ :「将来的な訪日へのDream」につなげる
2.ステップ:トレンド変化を踏まえた訪日旅行のイメージ訴求
3.ジャンプ:訪日外国人旅行者を誘客するプロモーションへ
です。
具体的な事例だと、
■ホップ、ステップ事例:参加型ゲーム
Facebookを利用した自分の誕生月に応じて、おすすめの次回訪問の観光地を紹介する企画
これは、新型コロナウィルスが収束した後、どこに旅行に行こうか?考えた際に日本を選んでいただくための試作として行っていると思われます。
しかし、ホップの目的である「将来的な訪日へのDream」につなげることはかなり大規模なプロモーションが必要です。1事業者が行ったとしても費用対効果は見込めないと思われるため優先度は下げていいように思えます。
その理由として2020年6月、日本政策投資銀行が公益財団法人の日本交通公社とインターネットを通じて「新型コロナウィルスが収束後、海外旅行でどの国に旅行をしたいか」を複数選択可能でアメリカ、フランス、中国、韓国など12の国と地域に住む6200人余りから回答を得た結果、46%が日本と回答し1位だということが分かりました。そのため、ホップ、ステップに関しては十分にプロモーションができているのではないかと思うからです。
出典:NHK(新型コロナ終息後の旅行 行き先の人気 日本が1位)
■ジャンプ:VR映像
タイでは、タイ旅行のイメージ訴求のためにインパクトを残しやすいVR映像を用いてプロモーションを行っています。ここでは、実際に旅行にきた際何をしたいか?をイメージさせ旅行の欲求を高めていると思います。この内容が事業者にとって非常に重要だと思います。
来日した後、「どこに何をしに行きたいか」で自社を選んでくれるようなプロモーションを視覚的に擬似体験できると新型コロナウィルス収束後スピード感をもち売上の回復が見込めるのではないでしょうか。
■参考:ウィズコロナ、アフターコロナにおけるインバウンドについて
ご紹介した試作ですが、両者ともデジタルな仕組みや技術を用いていると思います。物理的に距離があり直接的に価値を訴求できない状況ではデジタル技術を駆使したプロモーションや試作が重要になると思います。
そのために、インバウンド事業者は海外へ向けて積極的にデジタル技術を駆使し見込み客の獲得を行う必要があると思います。次章ではそんなプロモーション活動のデジタル化(DX)についてご紹介します。
DXとは
では、具体的にインバウンド事業者のDX化とはどのようなことをいうのでしょうか?
そもそもDXとは何なのかを簡単にご紹介します。
経済産業省が定義したDXとは
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
です。
これをインバウンド事業者に当てはめると
・対応するカード会社の幅を広げ、訪日外国人が決済しやすくする
・オンラインで商品を販売する
・VRを用いた擬似体験やツアーを開催する
などが、インバウンド事業者のDX化の手段になると思います。
その他具体的なDXに活かせる技術や事例は経産省がまとめた下記資料をご覧ください。
■観光×テックに利用されている最新技術
また、この時期必要になるのは目下で事業を継続するために国内でも旅行ができない状況で生き残りをかけた試作ができないかを考えることだと思います。おそらく選択肢は2つあると思います。
DXを駆使したターゲットの切り替え
ターゲットの切り替えとは、事業継続のための収益を得るために従来のターゲットではない層の獲得ができないか考えるということです。
その大きな軸としては
・海外顧客へ向けてインターネット上で簡潔するサービスを提供する
・国内需要に振り切って国内で完結するサービスを提供する
の2軸だと思います。
例として老舗旅館を対象としてこの2軸で選択肢がないのかを考えてみました。なお、あくまでも筆者が国内事例などを調べた結果考えたものなので参考程度にご覧ください。
海外顧客へ向けたプロモーション
■ターゲット
日本で働きたいと思っている人
■試作
日本のマナー講座をオンラインで行う
これは、日本で将来働きたいと思っている人へ向けて来日後、日本の文化や生きていくうえでのマナーを旅館という事業の特性を活かしてオンラインで教育するというプログラムです。実際に、マナー講座は事業として成り立っているため、旅館という特性を加えると差別化ができ需要があるのではないか?と思いました。
国内需要に振り切って国内で完結するサービスを提供する
■ターゲット
旅行が趣味の人と出会いたい日本人
■試作
旅館で繋がるオンラインマッチングサービス
これは、旅館という軸で出会いを生み出すサービスです。様々なマッチングサービスがありますが、出会いの軸を旅館にすることで似た感性で旅行好きに人と出会えることができます。実際、ゲストハウスや温泉で同様のサービスを行っている事業者がおり、ゲストハウスは予約が困難なほど人気になっているようで新しい出会いの形の1つとして面白いのではないかと思いました。
参考:東洋online(和歌山の「オンライン宿泊」がウケている理由)
このように、
・自社のリソースでオンライン化ことはないか?
・そのリソースを求めているターゲットはいるか?
・どんな試作にするか?
という流れで選択肢を出してみるとインバウンド事業者でもDXを駆使した事業活動を行えると思います。
次章では、試作の選択肢を増やすという意味で日本国内でインバウンド事業者がDXを駆使してどんなサービスを行っているかをご紹介します。
【インバウンド事業者向け】DXを活用している企業事例
最後に現時点でDX化を取り入れ事業活動をしているインバウンド事業者をご紹介します。
ここでは、海外への継続的なプロモーションが継続しながらもDXで国内需要を取り込もうとしている企業事例を3つご紹介します。
琴平バス株式会社
■取り組み
コトバスオンラインツアー
琴平バス株式会社様は、香川県の企業で高速バスや観光貸切バスのほか、バスを使った旅行ツアーやインバウンド客向けバス事業も展開し、外国人向けツーリストインフォメーションの運営など幅広く手掛けています。
他者との連携も積極的に行い今では5つのオンラインツアープランがあるそうです。
参考:地域密着型のバス会社による国内初のオンラインバスツアーが、日本中で注目を集める理由 —香川県コトバスツアー
株式会社美ら地球
■取り組み
分散型宿泊「SATOAMA STAY」
株式会社美ら地球様は、日本らしいのどかな里山をサイクリングするガイドツアーを行っている企業です。特に、海外からのお客様からご支持をいただいていたようです。新型コロナウイルスによりインバウンド需要が減ったことかた、新事業を立ち上げたそうです。SATOAMA STAYと呼ばれるその事業は古民家をリノベーションした宿泊施設だそうです。
飛騨古川の街並みを維持し、町家での宿泊を通じて地域らしさを感じられるようにしたいと、現存の空き家を活用すること決めたそうです。街に点在する古民家をリノベーションすることで近隣の方の需要に応えながら地域貢献もしているそうです。
参考:インバウンド客ゼロを乗り越えろ 日本の里山を体験できる宿開業、持続可能な観光を目指す —飛騨古川 SATOYAMA EXPERIENCE
一般社団法人アントラーズホームタウンDMO
■取り組み
新型コロナウイルス蔓延前は、国内外のサッカー合宿と近隣エリアのオプショナルツアーを行っていたそうです。新型コロナウイルス蔓延後はツアーが組めなくなったため、地域の物産展と共同開発した商品の販売などを行いコンビニなどでの販売やECサイトでの販売を行ってきたそうです。また、同チームファンを軸とした地域を周遊するツアーなども行っているそうです。
参考:観光地として低い知名度からの挑戦、アントラーズホームタウンDMOがスポーツチームを活用して実践する地域経営
今回ご紹介した企業は全て新型コロナウイルスにより打撃を受けた企業ですが、オンラインをうまく駆使して新たなサービスを打ち出しています。
時代が変わっているからこそ新しいニーズが生まれているため、事業の幅を広げるチャンスなのかもしれませんね!
まとめ
いかがでしたでしょうか。
インバウンド事業者がこれから行うべきことは
・継続的に諸外国へアプローチし、アフターコロナで来日の際選んでもらえるようにする
・国内需要を見つけ、DXを活用したサービスの企画
ではないでしょうか。
本記事を読み、Withコロナの試作が1つでも見つかれば幸いです。
参考記事
株式会社東京商工リサーチ:新型コロナウイルス関連 「インバウンド消失型」破たん 調査
日本政府観光局(JNTO) :ウィズコロナ、アフターコロナにおけるインバウンドについて
株式会社帝国データバンク:「新型コロナウイルス関連倒産」は 841 件
株式会社やまとごころ:日本のインバウンドの現状
株式会社やまとごころ:コロナに負けない!観光業が今できること