調整対象固定資産は消費税の控除に影響を与えるものであり、購入した場合は3年間の課税が強制されます。
このように、消費税額計算において重要な調整対象固定資産ですが、詳しい方は少ないかと思います。
今回は、調整対象固定資産の概要や3年縛りなどについてわかりやすく解説しました。本記事をきっかけにポイントをつかんで、実際の消費税の調整計算に備えて理解を深めておきましょう。
調整対象固定資産とは?国税庁が示す定義を確認
国税庁は調整対象固定資産を以下のように定義しています。
“棚卸資産以外の資産で、建物およびその附属設備、構築物、機械および装置、船舶、航空機、車両および運搬具、工具、器具および備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位の価額(消費税および地方消費税に相当する額を除いた価額)が100万円以上のもの”
たとえば上記の「車両」に該当する、会社用の営業車を税抜100万円以上で購入すれば、調整対象固定資産として扱われます。
一方、対象外とされている棚卸資産とは、いわゆる在庫のことです。
中古車販売店においては、お客様に売るために購入した中古車は棚卸資産とみなされるため該当しません。
調整対象固定資産は仕入税額控除に影響がある
消費税計算における仕入税額控除は、条件を満たす固定資産を購入した場合に調整しなければなりません。
ここでは、計算方法や考え方についてわかりやすく説明します。
消費税額計算の仕入税額控除とは?
仕入税額控除とは、消費税計算において売上で預かった消費税から仕入れで払った消費税を差し引くことを指します。
会社は、私たちが普段する買い物と同じように、商品を購入したら消費税を支払います。
そして、自社の商品を購入してもらったら、一時的に消費税を受け取るのです。
ところが、取引先から受け取った消費税はそのまま納税するわけではありません。
取引先から預かった消費税から自分が支払った消費税を差し引いた分を納税する仕組みが採用されています。
たとえば、5,000円で仕入れた商品を10,000円で販売した例を見てみましょう。
支払う消費税は500円で、商品を購入してくれた取引先からは1,000円の消費税を預かります。
この場合、結果的に支払う消費税は1,000円-500円=500円となり、実際に納税するのは500円です。
仕入れにかかった消費税を差し引いて納税額を求めることを「仕入税額控除」といい、消費税の多重課税を防ぐために設けられました。
固定資産の仕入税額控除の考え方
固定資産は本来長い期間に渡って使用するものなので、耐用年数に応じて分割して費用を計上し、法人税の節税を行うのが一般的です。
対して消費税の場合は、分割せずに購入時に全額控除となります。
仮に500万円の固定資産を購入したら、50万円の消費税を一気に控除することになるのです。
固定資産を購入した期の会社の状況だけで仕入税額控除を決定してしまうと、売上や使用用途に変化があった場合に適切な納税額にならない可能性が出てきます。
そこで、一定の条件に当てはまる固定資産は、購入した翌期以降の課税期間で仕入税額控除を修正する決まりを定めました。
この規定された決まりが「調整対象固定資産」です。
調整対象固定資産の購入時に仕入税額控除の調整が必要なケース
調整対象固定資産を購入した場合、以下のケースに当てはまると仕入税額控除の修正が必要になります。
- 課税売上割合が大きく増減した
- 使用形態を転用した
どのような状況が当てはまるのか、詳細を見てみましょう。
ケース①課税売上割合が大きく増減した
課税対象固定資産購入時の課税売上割合とその後の3年間の通算課税売上割合を比較し、50%以上の増減があった場合は仕入税額控除の修正が必要です。
詳しく説明すると、3年目の仕入税額控除に対して、課税売上割合が大幅に増えた場合は加算、減った場合は減算の修正を実施します。
課税売上割合は、課税売上と非課税売上の合計に対して課税売上がどのくらい占めるかを示すものです。
消費税法における課税売上とは、消費税が発生する売上のことをいいます。
一方、非課税売上は土地の譲渡や貸付、有価証券の譲渡などで消費税が発生しない売上のことです。
算出した課税売上割合は95%を境に、控除できる消費税の求め方が変わります。
- 95%以上:支払った分の消費税はすべて控除される
- 95%未満:支払った分の消費税はすべて控除できない
割合が高いほど控除額は大きく、納税額は減らすことが可能です。
このように、課税売上割合の増減は消費税の控除に大きな影響を及ぼすことがあります。
そのため、同じように仕入税額控除に影響のある調整対象固定資産を購入した場合は、納税額の大幅変動を防ぐための修正が必要になるのです。
【具体例】
2022年3月 | 2023年3月 | 2024年3月 | 3年間 | |
課税売上 | 9,000万円 | 1,500万円 | 1,500万円 | 12,000万円 |
非課税売上 | 1,000万円 | 8,500万円 | 8,500万円 | 18,000万円 |
全体の売上 | 10,000万円 | 10,000万円 | 10,000万円 | 30,000万円 |
課税売上割合 | 90% | 15% | 15% | 40% |
建物を2022年3月に税込9,900万円で購入したケースを見てみましょう。
この場合、課税売上割合は90%から40%へ大幅に減っているため、2024年3月の仕入税額控除から減算する必要があります。
減算される額は、建物の消費税900万円×50%(90%-40%)=450万円です。
つまり、最終的な仕入税額控除は900万円-450万円=450万円となり、結果的に調整後は納税額が増えることになります。
ケース②使用形態を転用した
調整対象固定資産を3年以内に以下のように、使用形態を転用した場合に仕入税額控除の修正が必要になります。
- 課税業務用から非課税業務用(仕入税額控除が減る)
- 非課税業務用から課税業務用(仕入税額控除が増える)
転用した課税期間において、以下の額の修正を行います。
修正する額はいつ転用したか次第で異なりますので、詳しくは以下を参考にしてください。
購入してから何年以内に転用したか | 調整対象固定資産にかかる消費税の何割を仕入税額控除に加算または減算させるか |
1年以内 | 3分の3(全額) |
1年以上2年以内 | 3分の2 |
2年以上3年以内 | 3分の1 |
調整対象固定資産の購入時に発生する3年縛りとは?
調整対象固定資産を購入した場合、3年間の課税義務が課せられ、免税事業者や簡易課税事業者になることはできません。
このことを、一般的に「3年縛り」といいます。
3年縛りが規定された理由は、購入後に課税か免税かどうか自由に選べてしまうと、固定資産分の消費税の支払いを回避できてしまうからです。
たとえば、調整対象固定資産を購入した年度の課税売上割合を高くして、消費税の控除を受けるとします。
その後に、免税事業者に切り替えれば、本来修正が入るはずの年度で、固定資産の消費税の支払いを回避できるのです。
そのため、購入した課税期間から3年間は課税事業者にならなければいけません。
調整対象固定資産や3年縛りの規定された背景
調整対象固定資産が規定された背景は、主に2つあります。
まず、建物や車両などの固定資産は長期にわたって利用されるものです。
そのため、購入時の課税売上割合だけで仕入税額控除を決定するのは、その後の会社の状況次第では実態と合わなくなることを考慮して設けられました。
加えて、租税回避を防ぐためにも定められた背景があります。
過去に、マンションの建設現場に自動販売機を設置し課税売上割合を調整して、消費税の払い戻しを受ける手口が盛んに取られていました。
マンション業者は非課税売上の多い形態なので、本来は消費税の控除は少ないはずです。
ところが、自動販売機などの課税売上をわざと発生させて消費税の控除を受けようとした業者が多くいました。
不当な節税を防止するために、調整対象固定資産や3年縛りが規定されたのです。
調整対象固定資産と高額特定資産の違い
2つの大きな違いは、対象資産の範囲と対象となる課税事業者です。
対象資産 | 対象の課税事業者 | |
調整対象固定資産 | ・100万円以上の固定資産 ・棚卸資産は対象外 | ・課税事業者選択届出書の提出により課税対象となった事業者 ・基準期間がない新設法人・特定新規設立法人の中でも免税がなかった事業者 |
高額特定資産 | ・1,000万円以上の調整対象固定資産 ・1,000万円以上の棚卸資産 | ・課税事業者選択届出書の提出により課税対象となった事業者 ・基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたことで課税対象となった事業者 |
共通点はどちらも「3年縛り」が設けられている点です。
まとめ
今回は、調整対象固定資産の概要や3年縛りなどについてわかりやすく解説しました。
100万円以上の固定資産を購入後に、課税売上割合が大きく増減したり使用形態を転用したりした場合は、仕入税額控除の修正が必要になります。
また、調整対象固定資産を購入後3年間は課税事業者が強制され、免税事業者や簡易課税事業者を選択できませんのでご注意ください。
概要をつかんで、納税額を正しく導けるように理解を深めてください。