2019年から「働き方改革関連法案」が施行され、残業時間や働き方全般について見直す機会が増えました。
言葉は馴染みがあるものの、実際にどのようなことが決められたのか詳細を理解していない人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は働き方改革とは具体的に何なのかをわかりやすく解説いたします。
また残業ができなくなるのか、従来の残業の規制と何が変わったのかについてもお伝えしているので、この機会にぜひ働き方改革の詳細について理解を深めていただければと思います。
働き方改革とは?わかりやすく解説
そもそも「働き方改革」とは、2019年に施行された「働き方改革関連法案」から生まれた言葉です。
大企業は2019年4月から、中小企業向けに開始したのは2020年4月からとなっています。
そもそも、働き方改革を実施する目的は以下の3つです。
- 長時間労働を減らすこと
- 正社員と非正規社員の待遇の差をなくすこと
- プライベートと仕事のワークライフバランスを取ること
「働き方改革=残業時間を減らして効率化すること」と考えている人は多くいますが、それだけでなく、プライベートとのバランスを取ることや、待遇を改善することも含まれます。
この背景には「過労死」という言葉が生まれ、労働時間があまりにも長いと心身状態に危険を及ぼすことが証明されたことが背景にあります。
労働時間を正確に把握することや、従業員の健康を守ることを優先するために行われた施策といえるでしょう。
施行後は多くの企業が残業時間や待遇の見直しをすることとなり、現在もテレワークやフレックスタイムを適用する企業が増えています。
施行スケジュールや大企業・中小企業の棲み分けについては、以下の資料に詳しく記載されています。
働き方改革で変わること
働き方改革が行われる前後では、残業時間の上限や有給休暇の取得日数、フレックスタイムの導入など様々な制度が変更されました。
具体的に何がどのように変わったのか、各項目に分けて解説します。
残業時間の上限
働き方改革では、制定前と比べて残業時間の上限が明確に定められました。
それまで時間外労働の基準は月45時間、年360時間でしたが、36(サブロク)協定という労使協定を結べば、実質いくらでも残業できる制度だったのです。
そして働き方改革では、以下の通り条項が決まっています。
- 時間外労働は1か月あたり最大100時間未満まで。年間720時間以内
- 数か月にわたる時間外労働の平均は月80時間まで
- 年間6か月以上、月45時間以上時間外労働をしてはいけない
- 上記を超えた場合は企業に罰則が科せられる
これらに抵触すると、雇い主に対して30万円以下の罰金、もしくは6か月以内の懲役が科されます。
しかし医師や建設会社、自動車運転業務の従事者などは猶予対象となるため、2024年4月以降から適用となります。
有給休暇の取得日数
働き方改革では、有給休暇の取得日数が「最低5日」と義務化されました。
これは大小関わらずすべての企業に適用され、一般的に付与される年10日の有給休暇のうち5日間の取得を必須としたものです。
この結果、厚生労働省の調査では有給休暇の取得率が56%と過去最高の数字になり、働き方改革が施行される前と比較して効果があることがわかっています。
労働時間の把握
働き方改革では、出勤時間と退勤時間を数字で記録して把握することが義務付けられています。
ただし、従業員の報告する数値と実態が伴っていなければ、知らず知らずのうちに働きすぎてしまい体調を崩す人が出てくることも。
そこで、勤怠管理システムで出退勤の記録をすることはもちろん、パソコンの使用時間と大きな差異がないかチェックを行い、実態と報告に差が出ないよう工夫している企業も存在します。
フレックスタイム制度の導入
働き方改革の一環として、勤務時間を柔軟に変更できる「フレックスタイム制」の導入も奨励されています。
勤務時間を固定しないことにより、家族に要介護者がいる従業員や育児をする従業員、障害を持ち、満員電車で通勤するのが困難な従業員にとって働きやすい環境が整いました。
しかし、実際にフレックスタイムを導入している企業は全体のうち6.5%という数字に留まっています。
大企業では導入している会社が多いものの、従業員数が少なくなるほどフレックスタイムの導入割合は少なくなり、まだ改善の余地があるといえそうです。
待遇の差を埋める
働き方改革では、正社員と非正規社員の待遇の差をなくすことも課題のひとつです。
そこで、同一労働・同一賃金という考えが提唱されました。
これは派遣社員やパートタイムで雇われた社員であっても、正社員と同じ内容の仕事をするのであれば同じ給与を支払うべき、という考え方です。
また報酬だけでなく福利厚生や研修なども、正社員と同様の内容を享受できるようにする動きも含まれています。
働き方改革の懸念点
残業時間や勤務体制が変わり、これまでの課題が改善されたかのように見えた働き方改革。
しかし未だに課題は残っており、完全に解決されるまではまだ時間が必要です。
ここからは働き方改革の実施により懸念される事項を4つの項目にわけて解説します。
仕組みの構築が必要
働き方改革の懸念点の1つ目は、仕組みの構築が必要になることです。
今までの生産性を維持、もしくは向上しながら残業時間を減らすには、今の仕組みを改善しなくてはいけません。
たとえば毎週行われていた定例をなくしてスプレッドシート上で報告をすることや、チャットツールを使ってメールの使用頻度を減らすことが必要になるでしょう。
このような仕組みの構築をしなければ、残業時間を減らして事業を継続することは困難です。
残業の実態が把握しにくくなる
働き方改革で懸念される点の2つ目は、残業の実態が把握しにくくなることです。
特にそれまで残業時間が多い従業員は、勤務時間を正確に記録せずにサービス残業をしてしまう可能性があります。
しかしこのような事態は本人にとっても会社にとってもデメリットになり、大きな問題につながったときに気づくのでは遅いのです。
必要に応じて、オフィスに出社している時間やパソコンのログイン時間も記録し、実態と相違がないかチェックできる体制を整えることも必要です。
社員のモチベーション低下
働き方改革の懸念点の3つ目は、社員のモチベーションの低下を招く恐れがあることです。
残業時間が減ることにより、それまで基本給に上乗せされていた残業代が減ってしまう重要員は少なからず出てくるでしょう。
その際にモチベーションの低下を招かないよう、なにかしら策を練る必要があります。
たとえばボーナスをインセンティブ制度にすれば、働いた結果が成果につながりモチベーションを維持できるかもしれません。
管理職の仕事量の増加
働き方改革の懸念点の4つ目は、管理職の仕事量が増加する可能性があること。
仮に規定の終業時間内に仕事が終わらない場合、部下の仕事は管理職が巻き取ることになります。
さらに働き方改革が制定され、チームメンバーの労働時間をマネジメントすることも管理職の仕事のひとつになります。
結果として管理職は仕事量が増えることが考えられるため、可能な業務はITを使って効率化することなど、生産性を上げるために新しいツールを使うなどするといいでしょう。
働き方改革に則って残業時間を減らす方法
働き方改革の内容の通り残業時間を減らすためには、現在の仕事方法を変えて新しいツールを取り入れたり、業務を平易化したりする必要があります。
ここからは残業時間を減らすためのアイデアを4つ紹介します。
コミュニケーションツールを変える
残業時間を減らすアイデアの1つ目は、コミュニケーションツールを変えることです。
社内・社外関わらずコミュニケーションにはメールを使う人が多いかと思いますが、メールの文章を打つのには非常に時間がかかるもの。
「お世話になっております」など定型文を打つことや、宛先のメールアドレスをいくつも入れることに時間を割くことも多いでしょう。
こうした問題はチャットツールを使えば解消できます。
定型文を打つ必要がなく、カジュアルなやり取りができるため毎日のコミュニケーションにかけるコストを減らせるのです。
まずは、社内のやり取りにはチャットツールを導入するところから始めてみてはいかがでしょうか。
オンラインツールの積極的利用
残業時間を減らすアイデアの2つ目は、オンラインツールを積極的に利用することです。
たとえば会議ひとつとっても、会議室で集まる必要はなくZoomなどのオンライン会議システムがあれば同じことを再現できます。
さらに、社外との商談もオンラインでできるようになれば、移動時間や資料を印刷する時間が省けます。
コロナ禍ではなるべく対面せずにやり取りすることが推奨されていますので、働き方改革の一環となるだけでなく非接触で仕事ができるメリットもあるでしょう。
ルーティンワークの平易化
残業時間を減らすアイデアの3つ目は、ルーティンワークの平易化です。
「〇〇の業務はあの人に聞かないとわからない」という状態が続くと、何度もコミュニケーションのやり取りが発生し、人が入れ替わったときに同じ仕事ができなくなります。
そうならないためには、ルーティンワークのマニュアルを作ることや、テンプレートを統一して誰が見ても同じ仕事ができるようにしなくてはいけません。
これらの活動にはある程度時間がかかりますが、一度マニュアルやシステムを作ってしまえば、その後の残業時間を大幅に減らすことが可能になります。
ノー残業デーの導入
残業時間を減らすアイデアの4つ目は、ノー残業デーの導入です。
週に1日だけでもいいので、ノー残業デーを奨励すると「残業をしない文化」が根付きはじめます。
最初は抵抗がある人もいるかもしれませんが、管理職や人事の担当者が積極的に声掛けをするなどして、自ら残業しない動きを作っていくことが大切です。
まとめ
今回は働き方改革の詳細や施行前後で変化したこと、残業時間を減らすためにやるべきことを解説しました。
内容を守らないと雇用主に罰則が科されることもありますので、施行前との違いを理解して日々の業務に落とし込んでいってください。
必要に応じてツールを導入し、日々の業務を効率化・平易化することも行っていきましょう。