企業の評価形態として近年注目されている「成果主義」。
欧米では既に浸透している制度ですが、日本で導入している企業はそこまで多くありません。
しかし、経済が縮小していく日本の社会において、成果主義の導入を検討することは避けられなくなってきました。
そこで今回は成果主義を導入するメリット・デメリットや制度を変更する際の注意点などを網羅的に解説します。
成果主義とは
まず成果主義の考え方について理解を深めておきましょう。
成果主義とは、学歴や勤続年数、年齢などに関わらず個人が出した成果に対して報酬を決める形態を指します。
わかりやすい例を挙げると、営業部門であれば月ごとや四半期ごと、年度ごとの営業成績に応じて収入額が決まる仕組みです。
ただ「成果主義」といっても様々な形態があり、一概に結果だけを見るわけではありません。
企業によっては結果だけでなくプロセスを見て、仕事に対する姿勢や結果を出すまでの過程と、最終的な成果を総合的に加味して評価を下します。
もしくは月収は固定金額にしており、成果に応じてボーナスの支給額が決まる会社も存在します。
このように成果主義は結果に応じて収入が決まるため、個人にとっても企業にとってもわかりやすい制度といえます。
ただし、成果が上がらないと減給されたり、降格したりする可能性があるためシビアな環境になるとも捉えられるでしょう。
成果主義が台頭してきた背景
日本でもここ数年で「成果主義」という言葉をよく聞くようになり、実際に導入している企業が増えています。
その背景についても簡単に見てみましょう。
戦後の日本は高度経済成長期に入り、経済状態が好景気だったために年功序列を維持できていました。
しかし1990年にバブルが崩壊してからは、多くの企業にとって厳しい時代に入ります。
その際の企業経営がうまくいかなかった要因のひとつに「人件費」が挙げられます。
この頃から一部の大企業などでは「成果主義」を導入し、なんとか人件費を削減しながら成果を出すための施策を練っていました。
「成果主義」という言葉が出始めたのはこの頃からです。
さらに2000年代に入って「働き方改革」が盛んになっていきます。
過剰な労働時間の見直しが必要となる中で、成果主義が注目され始めたのです。
さらに少子化を経て経済が縮小傾向になっていることもきっかけとなり、成果主義を取り入れる企業が増えている状況です。
ただ、まだまだ日本国内全体を見渡すと「成果主義が浸透している」とは言い切れず、制度の変更にあたって苦戦している企業もあります。
一方、欧米や中国では成果主義がメジャーな形態であり、GAFAと言われるアメリカの最大手企業も成果主義が当たり前の風潮になっています。
能力主義・実力主義との違い
成果主義と似た言葉に「能力主義」「実力主義」などがあります。それぞれの意味や違いについて見てみましょう。
能力主義とは
能力主義は成果主義と間違えやすい言葉のひとつですが、厳密には意味が異なります。
「能力主義」とはスキルの高さを評価する制度であるため、成果を見るものではありません。
たとえば、同じエンジニアでも一般的なPHP言語を使ってプログラミングができる人と、ディープラーニングの構築・運用ができる人であればスキルの希少価値が違います。
この2つを能力の観点で比べると、ディープラーニングの構築・運用ができるエンジニアの方が昇給する可能性が高いはずです。
習得するのに難易度が高いスキルや、希少価値が高いスキルを持っている人ほど「能力主義」の企業では評価されやすくなるといえるでしょう。
実力(実績・結果)主義とは
「実力主義」や「実績主義」「結果主義」といった言葉も存在します。
これらは成果主義とほぼ同じ意味であり、大きな違いはありません。
ただ実力主義は完全に「結果だけ」を見る形態を指すことが多く、結果を出すまでのプロセスは加味されません。
結果だけを評価する実力主義の企業では、厳しい人事制度に疲弊してしまう社員も出てくるかもしれません。
成果主義のメリット
一見、成果主義は社員にとって厳しい制度のように思えるかもしれません。
しかし年功序列にはないメリットもあり、社員だけでなく企業の経営者にとってもいい影響を及ぼします。
成果主義のメリットについて見てみましょう。
やる気の源になる
成果主義は「結果を出せば報酬になる」とわかりやすい制度のため、社員のモチベーションを高める源になります。
上昇志向が強い人であればやる気が増しますし、そうでない人でもきちんと評価基準を整えれば一定のラインを超えることは可能でしょう。
やればきちんと結果が出る仕組みを作ることで、社員のやる気を引き出してダラダラ働くことを防げます。
人件費削減になる
成果主義を取り入れると、企業側にとっては人件費が削減できるメリットがあります。
働いた時間に応じて給与を支払う体系でなくなることで、無駄なく経費を使えるようになるのです。
人件費のコスト削減が課題となっている企業では、成果主義の導入をすればある程度の効果は期待できるでしょう。
社員のスキルアップにつながる
成果主義は社員のスキルアップの一助となる可能性があります。
なぜなら収入を得るためには一定の成果を出す必要があり、自ら学んでスキルを向上させるきっかけができるからです。
既に働いている社員がスキルアップすれば企業全体のパワーアップにつながるでしょう。
さらに、求めるスキルに応じて外部から優秀な人材を起用することで、さらに社員のスキルを強固なものにできます。
成果主義のデメリット
成果主義は社員のやる気を引き出すなどのメリットがありますが、その一方でストレス過多になってしまうことや、中長期の目標を失念してしまうなどのリスクも考えられます。
それぞれのデメリットについて詳しくまとめました。
評価の難しさ
成果主義は数値に落とせば評価しやすい制度といえますが、一部の仕事に関しては評価基準が難しいことがデメリットです。
特に事務部門や法務、経理などのいわゆるコーポレート部門と呼ばれる部署においては、判断基準を決めるのに難航する可能性があります。
結果を数字に落としにくい作業については、仕事に取り組むプロセスを可視化して段階的に評価するなど、工夫して評価基準を決めなくてはいけません。
社員が納得できるような基準を明確にして、話し合いながら決めていくことが理想的といえるでしょう。
離職率の増加
それまで年功序列だった企業で成果主義を導入すると、離職率が高まることが考えられます。
特に勤続年数が長い人や年齢が上の社員は減給される可能性もあるため、以前と比べて離職率の数字が高まることを覚悟しなくてはいけません。
ただ成果主義の企業において離職率は総じて高くなりやすいものなので、体制変更直後に退職者が出ることはある意味仕方のないことでもあります。
一時的に離職率が高くなることを想定して、その後に働きやすい環境を整えることを意識するとよいでしょう。
成果を重視することによるストレス
成果主義は年功序列と比較すると「ストレス過多になりやすい環境」でもあります。
なかなか成果が出ないことに焦りを感じたり、周りと比較してしまったりしてネガティブな感情を持つ社員も出てくるでしょう。
また競争的な環境になる可能性もあるため、社員の心理的安全性を確保できるようコミュニケーションをこまめに取るなど、何かしら工夫しなくてはいけません。
成果を重視しすぎて心身の健康を損なわないよう、企業側も社員のケアをすることが大切です。
中長期的な目線を失いやすい
成果主義で失敗しやすい要因のひとつに「中長期的な目線を失ってしまうこと」が挙げられます。
たとえば営業部門の上半期の達成率が200%になったとして、それ自体は大変喜ばしいことです。
しかし蓋を開けてみると、大型案件のプロジェクト遂行に予想以上の時間がかかってしまい、実質の利益率はほぼゼロに近い、といったケースもあります。
このような事態に陥ると、下半期以降は同じような成果を出すことは難しくなってしまいます。
目先の成果を追うことだけを考えるのではなく、中長期的な目線を持たなければ会社の存続自体が危ぶまれることになります。
チームワークの質の低下
成果主義の環境下では「チームワークの質が低下する」というデメリットがあります。
個人の成果を評価する場合同僚と争うような形になり、助け合う風潮が薄れてしまう可能性があるからです。
モチベーションを高く持つことは大切ですが、それ以上に社風を損なってしまうと気持ちよく働く環境づくりが難しくなります。
チーム制の確立やまめなコミュニケーションを心がけるなど、チームワークの質を落とさないよう体制を工夫することをおすすめします。
成果主義の成功事例
ここからは成果主義を導入して成功した2つの企業を紹介します。
大手アパレルブランドのユニクロと、通信キャリアのひとつであるソフトバンクの事例です。
参考:転職会議Reportv
ユニクロ
成果主義の人事制度が浸透しているアパレルブランド「ユニクロ」。
制度は完全にマニュアル化されており、内容をきちんと読んでスキルアップすればグレードが上がっていく仕組みです。
実績を残せば新卒3年目などの若手社員でも経営幹部になる可能性があり、裁量権が大きい仕事を任されることもあります。
マニュアルが整備されているため社員の納得度も高く、明確な指標がモチベーションにつながっているようです。
ソフトバンク
大手通信キャリアのソフトバンクも、成果主義を導入して成功した企業のひとつです。
中でも「球団のインセンティブ制度」は珍しく、ソフトバンクの球団の成績に応じて球団に所属している社員の報酬金額が変わります。
またソフトバンクは企業全体としてチャレンジ精神が強く、希望すれば部署異動して新たなプロジェクトを始められる環境が整っています。
若くして管理職に就くことも可能で、上昇志向が強い人とは相性のいい企業ともいえるでしょう。
成果主義の失敗事例
せっかく年功序列から成果主義へ切り替えても、新たな制度がうまくいかなかった企業も存在します。
大手システムインテグレータの富士通は1993年と早期に成果主義を導入しましたが、旧制度に戻したいきさつがあります。
失敗した最大の要因は「短期的な目標の達成を優先してしまったこと」だそうです。
短期の結果を出すことにとらわれると、数年やそれ以上のスパンで見たときに経営が続きにくくなってしまうことを示したいい教訓といえます。
成果主義を導入する際の注意点
制度を切り替えるにあたって、少なからず反対する社員が出たり、成果主義の体制がうまく活用できなかったりすることもあるでしょう。
成果主義の導入にあたって気を付けたい注意点をいくつかまとめました。
管理職に対する教育
注意点のひとつ目は「管理職に対する教育」です。
評価するにあたって主観的な偏りが生じないよう、新たな評価制度を納得したうえで業務をする必要があります。
またそれに応じて部下のスキルアップや仕事の仕方を見極められるよう、管理職自身のスキルを向上させることも必要です。
定期的に研修を実施するなど、客観的な目線で評価を行えるよう企業側の研修体制を整えることをおすすめします。
評価業務の効率化
新たな評価体制を導入すると、成果を測るためにどうしても時間がかかってしまいます。
成果主義においてもそれは同様で、管理職の社員が評価業務の時間を短縮するために何かしら効率化をしなくてはいけません。
たとえばシステムを導入してクラウド上で成果を管理することや、なるべく数字にしやすい項目をKPIに設定するなど、効率化するための策を練ることが大切です。
評価基準のバランスを取る
成果主義においてもっとも気を付けたいことのひとつに「評価基準の決め方」が挙げられます。
短期的でなく中長期の視点を加えたKPIや、結果だけでなくプロセスを評価するKPIなど、バランスよく指標を決めることが求められます。
また評価基準を決める際は現場の社員の声を交えて、納得のいくものにすることが大切です。
また基準が決まったら資料などに落とし込んで、社員にわかるよう明確に公表しましょう。
まとめ
今回は「成果主義」の背景や成功・失敗事例、導入する際のポイントなどを解説しました。
日本において今後成果主義は増えていくことが予想されますので、デメリットや注意点を踏まえたうえで制度を整える必要があります。
評価基準をバランスよく整理するなど、対策を講じれば自社にとっていい影響を与えるものになりますので、成果主義の導入をきっかけに自社の改革を始めてみてはいかがでしょうか。