事業転換。おそらく、安定している企業ほどあまり聞き慣れない言葉ですよね。しかし、事業を営む以上高い確率で考えることになる事業転換。その時、経営者として何を持って判断をすればいいのか?その参考になれるように事業転換はどんな方向性があるのか?事例を交えてご紹介します。
事業転換とは
まず改めて事業転換の定義について筆者と読者の間で認識の差がないか?そしてあった際にそのギャップを埋め合わせるために事業転換の定義についてご紹介します。
結論から申し上げると、事業転換とはコトバンクによると、事業転換とは
’’企業が現在営んでいる事業を縮小または廃止して,その代りに他の異なる事業を始めること’’
と定義されています。
筆者もこの定義で認識しており本記事では、既存事業を縮小、又は廃止している企業事例をご紹介します。
事業転換を行う目的は
・既存事業の収益性や利益などの内部要因
・今回の新型コロナウイルスのような外部要因
などから事業活動に支障が生じ、他の利益が見込める事業に乗り換えるために行う。つまり企業存続のために行うと多いです。
また、近年外部要因。特に新型コロナウイルスにより事業転換を考える企業が増加しています。株式会社帝国データバンクが2020年12月に行なった調査によると、5社に1社が業態転換の予定があると回答しています。
■事業の業態転換の実施有無
出典:株式会社帝国データバンク
「特別企画 : 新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020 年 12 月)」
それほど、事業転換を考える企業は増加しているため、いざという時のための参考となる事例をご紹介させていただきます。
3つの事業転換の方向性と事例
では、そんな事業転換ですがどのような選択肢があるのでしょうか?
日本政策金融公庫総合研究所研究員 川楠誠司氏によると、事業転換には3つの方向性があるとおっしゃられています。そこで、いぜ事業転換を考えた時どんな選択を取ればいいのか?川楠誠司氏が記された論文を参考にご紹介させていただきます。
深化(1つの市場を深く追求する)
参考:日本政策金融金庫「環境激変下を生き抜く企業経営-進化した小企業の軌跡をたどる-」
1つ目は、「深化」です。深化とは’’得意とするノウハウにさらに磨きをかけ、既存の顧客層のニーズを掘り起こしていくパターンである’’と川楠誠司氏は記されています。
これは、自社サービスではまだ拾いきれていない顧客ニーズを発掘し解決する事業転換の方向性で、事業幅が縦に長くなるイメージです。
深化をするメリット・デメリット
では、深化という選択をする際どのようなメリット・デメリットがあるのかご紹介します。
■深化をするメリット
活動領域を大きく変えないため、既存の技術や販路を活かせること
■深化をするデメリット
成熟市場で需要を掘り起こすには、従来にない魅力をもった商品・サービスを創造する必要に迫られるため、もてる技術・ノウハウをより高次元のものへと深化させていく粘り強さが求められること
■メリット・デメリットまとめ
つまり、深化は狭く深く1を極める手段のためとことん自社の特徴を磨き続ける必要があります。もちろん長く長期戦になりますが事業を継続させ続けることができれば業界トップの企業となり安定した業績を残せるかもしれません。
深化を実行した企業事例
大青工業株式会社:技術力を高め顧客ニーズを獲得した事例
大青工業株式会社様は、業務用の冷蔵・冷凍庫を主力商品とする企業です。大青工業株式会社様では、主力取引先だったりんご農家の減少などから事業成長がていたしていたそうです。そんな時、活路を見出したのが果物や野菜などが凍る寸前の温度帯で保存し長期間鮮度を維持する第3の保鮮技術である「氷温」だったそうです。この技術を取り入れた氷温庫の開発により、りんご農家は一年中りんごの出荷ができるようになり、一年を通した収入を確保できるようになるというニーズを実現できるようになりました。
参考:大青工業株式会社
伸化(周辺市場まで広く展開する)
参考:日本政策金融金庫「環境激変下を生き抜く企業経営-進化した小企業の軌跡をたどる-」
続いてご紹介するのは伸化です。伸化とは、’’既存の顧客層が抱くさまざまなニーズに広く応え、事業内容を拡大していくパターンである’’と川楠誠司氏は述べられています。
既存市場の顧客ニーズに合わせて幅広く事業を広げていくことで、事業幅が横に広がっていくようなイメージです。
伸化をするメリット・デメリット
では、伸化という選択をする際どのようなメリット・デメリットがあるのかご紹介します。
■伸化をするメリット
商品・サービスの革新性や、事業そのものの新規性を競うというよりも、従来
の活動領域の延長線上で提供できるサービスを付加することで急な資金不足などのリスクが低いこと
■深化をするデメリット
顕在化しつつあるニーズをいち早くキャッチしたうえで、いかにそのニーズ
にきめ細かく対応できるかマーケティングを徹底しなければいけないということ
■メリット・デメリットまとめ
伸化することで、既存顧客が満たせていないニーズを徹底的に調べ、他のサービスなどで満たせていないニーズを見つける手間とコストはかかりますが、既存顧客への追加サービスなので顧客がいなくなってしまったり、現状顧客がいない市場にいくわけではないので、リスクは比較的少ない事業転換の方向性だといえるでしょう。
伸化を実行した企業事例
株式会社 美鈴楽器:既存顧客の新しいニーズを発掘した事例
株式会社 美鈴楽器様は「大人のための総合楽器店」をコンセプトにしている企業です。売上が低迷した時、業務日記をヒントに50~60歳の顧客が
・大人は練習や発表の場に事欠き、演奏場所の紹介や発表機会の提供を望んでい
ること
・楽器を楽しみたいという大人が増えている
というニーズを発掘しました。
そこで、店舗を改装してコンサートホールを設けたり音楽教室をオープンしたりしてニーズに応える体制を構築し事業成長に繋げたそうです。
参考:株式会社 美鈴楽器
新化(市場を入れ替える)
参考:日本政策金融金庫「環境激変下を生き抜く企業経営-進化した小企業の軌跡をたどる-」
3つ目となる最後の事業転換の方向性は新化です。これは、前述した2つと大きく違い’’培ってきたノウハウや機能、既存の顧客層にとらわれず、新市場に進出する、あるいは市場を自ら創造するというように活動領域を一新する’’事業転換です。
顧客も全く違う市場に完全移行するため、市場を引っ越しするようなイメージです。
新化をするメリット・デメリット
では、新化という選択をする際どのようなメリット・デメリットがあるのかご紹介します。
■新化をするメリット
市場の成長見込みが見えない場合や、圧倒的なマーケットリーダーがいてこれ以上戦うのが難しいとなった場合、事業を継続させる一手になりうる。
■新化をするデメリット
市場に参入したとしても、事業を大幅に転換するために高いリスクが付きまとう。
■メリット・デメリットまとめ
新化は、前述した事業転換よりも圧倒的にリスクが大きいため、今の事業が全く安定しない。赤字続き。市場がこれ以上伸びない。などの時に選択する最後の砦のような事業転換です。
伸化を実行した企業事例
株式会社ニシウラ
株式会社ニシウラ様はもともと道路や砂防ダムなどの公共工事を中心とした地域のインフラ作りをしていた企業でした。しかし、インフラなどの公共事業が激減したために売上の目処が立たなくなり介護用住宅設営に事業転換しました。この時点では顧客は市や国などだったのですが、補助金の有無で売上が変動するため安定しなったそうです。そこで、試行錯誤した結果、介護施設入居者を顧客とした介護用品開発の事業に事業転換したそうです。
県内唯一の資格取得をしたことなどで鳥取県を中心とした山陰地方の病院・介護施設へのニシウラのオムツ納入シェアは50%を超えるほどに成長したそうです。
出典:中小企業庁「第2部 小規模事業者の挑戦」
参考:株式会社ニシウラ
まとめ
今回は、急増している事業転換についての事例をまとめました。
事業転換には
①深化(既存顧客のニーズを深掘りする)
②伸化(既存顧客が答えられていないニーズに対応する)
③新化(事業ごと変える)
の3つがあることがイメージできたでしょうか?
新型コロナウイルスで、廃業している事業者が増えているため、もし事業存続の危機にある方は一度事業の今後を考え事業転換をするか考えてみることも重要かもしれません。
オススメ記事
<参考>
株式会社帝国データバンク「特別企画 : 新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020 年 12 月)」
中小企業庁「第2部 小規模事業者の挑戦」
日本政策金融金庫「環境激変下を生き抜く企業経営-進化した小企業の軌跡をたどる-」