近年、注目を集めている「働き方改革」。言葉自体は良く聞くけれど詳しいことは良く分からない、という方も少なくないのではないでしょうか。
働き方改革とは、「働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自ら選択できるようにするための改革」のことですが、なぜ、働き方改革が必要なのか、そして、働き方改革に向けた政府の取り組みはどういうものなのか、分かりやすく解説します。
企業は働き方改革のためにどういうことをなすべきなのか、についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
なぜ働き方改革が必要なのか?
政府が「働き方改革」を促す背景にあるのは、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「働く人々のニーズの多様化」という、日本が直面している2つの問題。それぞれの問題について、分かりやすく解説していきます。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
政府が「働き方改革」を促す背景にあるのが、労働力人口の減少が著しいこと。まず、内閣府が発表している「日本の将来推計人口」によると、総人口は2008年から減少の一途をたどっています。
そして、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の調査をピークに減少に転じ、平成25年には8,000万人、平成39年には7,000万人、平成63年には5,000万人を割りこみます。
このままでは、日本経済が「労働力の減少による経済活動の鈍化」「高齢者の増加による医療保険や年金などの社会保障費の増加」というダブルパンチを受けることは明白。そのため、「働き方改革」で労働生産性と賃金を高めることが必要となっているのです。
働く人々のニーズの多様化
育児や介護をしながら仕事を続けたい人、会社に縛られずに自分の好きな仕事をしたい人など、いまや、働く人々のニーズも多様化しています。収入面でも、「贅沢はできなくても生活ができれば良い」という人も多く、収入よりも「自由な時間」に価値を見出す人が増えてきました。
これに伴い、在宅ワーカーや業務委託、請負で働くフリーランスという働き方も広く浸透してきています。ワーク・ライフ・バランス(生活と仕事の調和)を重視する人が増加し、働き手のニーズが多様化する中、そのニーズを満たす「働きやすい環境」を整えることが、企業にも求められているといえるでしょう。
働き方改革に向けた政府の取り組み
日本経済が成長と分配の好循環を構築するためには、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することが必要です。
政府が推し進める「働き方改革」のポイントは
・労働時間の是正
・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
・副業・兼業の普及促進
・柔軟な働き方の実現
の4つ。それぞれの内容について、紹介していきます。
労働時間の是正
長時間労働は、健康を害するだけでなく、仕事と家庭生活の両立も阻害します。ところが、平成29年度に25,676事業所に対して実施された労働基準監督署の監督指導によると、45.1%の11,592事業所で違法な時間外労働が確認され、そのうち、74.1%にあたる8,592事業所で1月当たり80時間を超える時間外労働・休日労働が確認されました。
働き方改革では、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間。臨時の特別な事情があり、労使が合意する場合であっても、年720時間以内・月100時間未満・2~6か月平均80時間以内の範囲内で収めることが必要であるとしています。
また、原則である月45時間を超えられるのは、年6か月までとされました。
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
雇用形態には、正規雇用と非正規雇用とがあります。総務省統計局が実施した労働力調査によると、役員を除く雇用者5,618万人のうち、正規の職員・労働者は、前年同期に比べ65万人増加し、3,500万人。非正規の職員・労働者は68人増加し、2,118万人とされています。
約4割の労働者が非正規雇用として働いていることが分かりますが、正規雇用と非正規雇用では、不合理な待遇差がある、というのが問題となっていました。したがって、働き方改革では、雇用形態による待遇差を禁止。
勤務内容・人事異動の範囲が同じである場合は、雇用形態に関わらず待遇は均等に(均等待遇)、そして、勤務内容・人事異動の範囲が異なる場合は、その違いに準じた待遇(均衡待遇)を確保することとしました。
また、派遣労働者に対しても、派遣先の正規雇用労働者との均等待遇または均衡待遇、または、同種業務に従事する労働者と同等以上の待遇とする、としています。さらに、非正規雇用者が求めた場合、正規雇用者との待遇の違いについて、その内容や理由を説明することが義務付けられました。
副業・兼業の普及促進
働き方改革では、副業・兼業の普及も促進しています。厚生労働省は、副業・兼業を認めない会社が全体の8割の上るという現状と、副業・兼業によるメリットを「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で説明。
副業・兼業は、企業に新しい情報やノウハウによって事業拡大につながるものであり、人材の流出を防ぐもの、そして、労働者にとって収入をはじめ、キャリアやスキルアップにつながるものであるとしています。
ただし、副業・兼業は働く時間が長時間となるおそれがあるものであるため、就労時間の管理が求められます。
柔軟な働き方の実現
妊娠・出産や子育て、そして、親の介護など、さまざまな理由によって離職せざるを得ない、ということは往々にしてあるもの。しかし、離職せずに働き続けたい、という意欲を持っている労働者も少なくありません。
その解決策として、時間や場所を選んで働くことができる「テレワーク」という柔軟な働き方の実現が求められています。テレワークは、雇用契約を結んで働く「雇用型テレワーク」と雇用契約なしで働く「自営型テレワーク」とに分けられ、それぞれのケースごとにガイドラインが制定されました。
テレワークを進めるにあたり、労働時間の管理や労働条件の取り決めなどが必要となりますが、推進することで、生産性の向上や労働者の健康的な生活の確保、自己管理能力の向上などが期待されています。
働き方改革で企業がすべきこと
企業が「働き方改革」を実現するためにはすべきことは、各種法改正への対応や自社の生産性を高めるための工夫、柔軟な勤務形態の整備など多岐に渡ります。
その中でも、優先して着手すべきこととして
・法令順守の徹底
・生産性の向上による労働時間の削減
・働き方の柔軟化による離職率の低下と採用の強化
の3つ。それぞれについて、分かりやすく紹介します。
法令順守の徹底
企業活動の大前提は、法令を遵守すること。まずは、自社が法改正に対応できているかを確認しましょう。ちなみに、厚生労働省は、労働基準関係法令違反の疑いで送検した案件などをホームページで公表しています。
これは「ブラック企業リスト」などと呼貼れていますが、このリストに載ってしまうと、取引先からの信用や労働者のモチベーションの低下、そして、「求人を出しも全く反応がない」という状況になりかねません。
公表されている案件を参考に、自社を見直すことがおすすめです。
生産性の向上による労働時間の削減
働き方改革で最も注目度が高いのが、「労働時間」の問題です。膨大な時間の残業を強要されたことでメンタルを壊し、命まで落としてしまう。このような事案はマスコミにも大きく取り上げられ、社会問題にもなりました。
多くの企業が直面する、労働時間の削減という課題。その解決には、使用者と労働者が知恵を絞って「業務工程の改善」や「IT化」、「省力化設備の導入」などに取り組み、生産性を高めることが必要です。
働き方の柔軟化による離職率の低下と採用の強化
「多様な働き方」に対する労働者のニーズは、今後も大きくなると予想されます。多様な働き方を実現した企業には労働者が集まり、そうでない企業は労働者に逃げられるようになるでしょう。
離職率が上がると組織能力は下がり、新規採用も厳しくなります。
企業は「働き方の多様化」を受け入れ、働き方改革を進めていくべきでしょう。
さまざまな働き方
フレックス制
フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が 日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。労働者は仕事と生活の調和を図りながら効率的に働くことができます。
あらかじめ働く時間の総量(総労働時間)を決めた上で、日々の出退勤時刻や働く⻑さを労働者が自由に決定することができます。労働者にとっては、日々の都合に合わせて、時間という限られた資源をプライベートと 仕事に自由に配分することができるため、プライベートと仕事とのバランスがとりやすくなります。
フルフレックス制
フルフレックス制とは、フレックス制とほぼ同じですが「コアタイム」があるかないかになります。
「コアタイム」というのは1日のうちで必ず就業しなければならない時間のことです。
企業の「働き方改革」事例
現在、大企業から中小企業まで、多くの企業が「働き方改革」に取り組んでいます。その中でも特に成果をあげている事例をご紹介します。
日本電産株式会社
同社の信条は、「人の倍働く」というものでしたが、グローバルな競争を見据えて「働き方改革」の推進に舵を切りました。同社がまず実施したのは、生産性を高めるための課題を把握するため、労働者約200名へのヒアリング。
抽出した課題ごとに対策の分科会を組織し、課題を解決するためのアイデア出しを全社員で行いました。そして、そこで出たアイデアをもとに、立ち会議スペースの導入や業務工数の見直し、時間外管理の徹底や在宅勤務・時差勤務・時間単位年休の導入、ITシステム強化などを実施。
これらの取り組みにより、わずか1年半弱で残業時間半減を実現しました。
株式会社サタケ
同社は、「会社を取り巻くすべての人々を幸せにする」という経営方針を「社員とその家族を幸せにする」に変更。そして、有給休暇のストック制度や自社制作ポスターによる男性社員の育休取得の呼びかけ、孫の出生に伴う休暇制度の新設など、労働者思いの特長ある取り組みを進めています。
将来的には、週休3日制の実現を目標とし、既に試験的な導入が始まっています。
まとめ
生産年齢人口の減少や働く人のニーズの多様化など、今の日本が抱える問題を解決するために欠かせない「働き方改革」。今回紹介した内容を参考に、自社に必要なことを知り、取り組みを進めてみてください。
<参考>
「働き方改革」とは?いまさら聞けない基本から、今後のトレンドまで(リクルートマネジメントソリューションズ)
働き方改革のガイドラインとは?特に知っておきたいポイントを丁寧に解説!(働き方改革ラボ)
フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き(厚生労働省)
フレックス制導入の手引き(厚生労働省)